第64回 法人税法 税理士試験 第2問 解答速報 棚卸資産 [税理士試験と実務の接点]
第64回 法人税法 税理士試験 第2問 解答速報 棚卸資産
■ビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=SaK06SxGvOk&feature=youtu.be
■レジュメ
http://9oo.jp/xHTZ01
低価法による評価損(法29 令28)と資産の評価損(法33)の識別を問われた問題
選定が必要な評価損と不要な評価損の識別ができるか?
問
棚卸資産のうち、原材料について次のことが判明した。K材料3,510,000円は、甲社製品の仕様変更により、今後、製造工程に投入されることはないため、転売するしか処分の方法はない。相場の回復も見込まれないことから、取得価額の40%相当額の低価評価損を計上し、原材料勘定から減額した後の金額を計上している。
損金の額になるのかならないのか?
×損金の額に算入できる解答例
K材料は甲社製品の仕様変更により、今後、製造工程に投入されることはなく、転売するしか処分の方法はない価格の回復も見込まれないため低価評価損についての調整は不要である。
一見よさげに見えますがあってないと思います。
■ 選定なしには損金の額にはならない
・著しい下落は50%以上なくて著しいとなるのか?
・基本通達9-1-4は、材料について適用はあるのか?
・仕様変更での材料自体に評価損が認められるのか?
→低価法の適用ならば可能だが評価損はできない。
→先入先出法による原価法(会計的には低価法を包括)を採用しているが、税務上は先入先出法による原価法による低価法を選定していないと低価評価損は認められない。
低価評価損と評価損の識別ができるかを問われている論点です。
損金の額にはならないという解答が出せるように棚卸資産評価基準を踏まえ検討できるようにしてください。
また、製品や商品以外の棚卸資産。具体的には材料や仕掛品に低価法の承認申請を実施すると税務署等から理由を問われることもあるはずです。明確な理由がなければ材料や仕掛品を除いて承認申請を実施しているケースも多いはずです。材料や仕掛品に低価法が起こりうることは起きにくい業種もあるかもしれません。
監査会計実務では仕掛や材料であろうと低価法を測定するノウハウは出来上がっています。監査会計の視点もあれば、
「開発中の製品は受注金額を上回ることも起こりうること」
「投入されず長期滞留在庫になることも想定されること」等の理由も解答でき不用意に材料や仕掛品の承認申請を拒まれることもなくなるはずです。
問われる点は非常に高度だと思います。似ている言葉をつなげて作った解答は課税実務上は非常に大きなリスクになります。
根拠法令等
(資産の評価損の計上ができる事実)
令第68条
法第33条第2項
(特定の事実が生じた場合の資産の評価損の損金算入)に規定する政令で定める事実は、物損等の事実(次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める事実であつて、当該事実が生じたことにより当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなつたものをいう。)及び法的整理の事実(更生手続における評定が行われることに準ずる特別の事実をいう。)とする。
一 棚卸資産 次に掲げる事実
イ 当該資産が災害により著しく損傷したこと。
ロ 当該資産が著しく陳腐化したこと。
ハ イ又はロに準ずる特別の事実
(棚卸資産の著しい陳腐化の例示)
9-1-4
令第68条第1項第1号ロ《評価損の計上ができる著しい陳腐化》に規定する「当該資産が著しく陳腐化したこと」とは、棚卸資産そのものには物質的な欠陥がないにもかかわらず経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあることをいうのであるから、例えば商品について次のような事実が生じた場合がこれに該当する。(昭55年直法2-8「三十一」、平17年課法2-14「九」により改正)
(1) いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らかであること。
(2) 当該商品と用途の面ではおおむね同様のものであるが、型式、性能、品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができないようになったこと。
(棚卸資産について評価損の計上ができる「準ずる特別の事実」の例示)
9-1-5
令第68条第1項第1号ハ《棚卸資産の評価損の計上ができる事実》に規定する「イ又はロに準ずる特別の事実」には、例えば、破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになったことが含まれる。(平12年課法2-19「十三」、平17年課法2-14「九」、平19年課法2-3「二十一」、平21年課法2-5「七」により改正)
(棚卸資産について評価損の計上ができない場合)
9-1-6
棚卸資産の時価が単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、令第68条第1項第1号《棚卸資産の評価損の計上ができる事実》に掲げる事実に該当しないことに留意する。(平12年課法2-19「十三」、平17年課法2-14「九」により改正)
(棚卸資産の評価の方法)
令第28条
法第28条第1項
(棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法)の規定による当該事業年度終了の時において有する棚卸資産の評価額の計算上選定をすることができる同項 に規定する政令で定める評価の方法は、次に掲げる方法とする。
一 原価法(当該事業年度終了の時において有する棚卸資産(以下この項において「期末棚卸資産」という。)につき次に掲げる方法のうちいずれかの方法によつてその取得価額を算出し、その算出した取得価額をもつて当該期末棚卸資産の評価額とする方法をいう。)
イ 個別法(期末棚卸資産の全部について、その個々の取得価額をその取得価額とする方法をいう。)
ロ〜ヘ 省略
二 低価法(期末棚卸資産をその種類等(前号ヘに掲げる売価還元法により算出した取得価額による原価法により計算した価額を基礎とするものにあつては、種類等又は通常の差益の率。以下この号において同じ。)の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、前号に掲げる方法のうちいずれかの方法により算出した取得価額による原価法により評価した価額と当該事業年度終了の時における価額とのうちいずれか低い価額をもつてその評価額とする方法をいう。)
2 以下省略
(棚卸資産の評価の方法の選定)
令第29条
第28条第1項(棚卸資産の評価の方法)に規定する棚卸資産の評価の方法は、内国法人の行う事業の種類ごとに、かつ、商品又は製品(副産物及び作業くずを除く。)、半製品、仕掛品(半成工事を含む。)、主要原材料及び補助原材料その他の棚卸資産の区分ごとに選定しなければならない。
平成23年度 改正
棚卸資産の切放し低価法の廃止
(時価)
5-2-11
棚卸資産について低価法を適用する場合における令第28条第1項第2号《低価法》に規定する「当該事業年度終了の時における価額」は、当該事業年度終了の時においてその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額(以下5-2-11において「棚卸資産の期末時価」という。)による。
(注) 棚卸資産の期末時価の算定に当たっては、通常、商品又は製品として売却するものとした場合の売却可能価額から見積追加製造原価(未完成品に限る。)及び見積販売直接経費を控除した正味売却価額によることに留意する。
【解説】
1 平成19年度の税制改正により、棚卸資産の期末評価について低価法を適用する場合における棚卸資産の評価額が「当該事業年度終了の時におけるその取得のために通常要する価額」(いわゆる再調達原価)から「当該事業年度終了の時における価額」に改められた(令28①二)。
「当該事業年度終了の時における価額」とは、いわゆる時価のことであり、一般的には正常な条件により第三者間で取引されたとした場合における価額と解されている。
そこで、本通達において、棚卸資産について低価法を適用する場合における「当該事業年度終了の時における価額」は、当該事業年度終了の時においてその棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額であることを明らかにしている。
2 企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(平成18年7月5日企業会計基準委員会)(以下「棚卸資産会計基準」という。)においては、通常の販売目的(販売するための製造目的を含む。)で保有する棚卸資産の期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とすることとされている。この「正味売却価額」とは、売価(購買市場と売却市場とが区別される場合における売却市場の時価)から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除したものをいう(棚卸資産会計基準5)。
本通達の「棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額」は、棚卸資産を商品又は製品等として売却するものとした場合において見込まれる売却価額であるから、通常は、この「正味売却価額」によることとなる。本通達の注書においてこのことを明らかにしている。
3 ところで、棚卸資産会計基準では、正味売却価額の算定に当たり、売却市場において市場価格が観察できないときには、合理的に算定された価額を売価とし、これには期末前後での販売実績に基づく価額や契約により定められた一定の売価を用いる場合を含むこととされている(棚卸資産会計基準8)。法人がこのような方法により合理的に算定された金額を棚卸資産の期末評価額として低価法を適用している場合には、税務上も、当該期末評価額は法人税法施行令第28条第1項第2号の「当該事業年度終了の時における価額」として取り扱われよう。
4 さらに、棚卸資産会計基準においては、企業の会計実務を考慮して、製造業における原材料等のように再調達原価(購買市場の時価に、購入に付随する費用を加算したものをいう。)の方が把握しやすく、正味売却価額がその再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合には、継続して適用することを条件として、再調達原価(最終仕入原価を含む。)によることができることとされている(棚卸資産会計基準10)。
製造業における原材料等のように製造工程に投下されていない棚卸資産については、未だ新たな付加価値が付与されていないことから、当該原材料等の棚卸資産の正味売却価額はその最終仕入価額や再調達原価とおおむね一致するものと考えられる。したがって、税務上も、法人がこのような棚卸資産に限り、いわゆる再調達原価により算出した金額を当該棚卸資産の期末評価額として低価法を適用している場合であっても、これを法人税法施行令第28条第1項第2号の「当該事業年度終了の時における価額」として取り扱って差し支えないものと考えられる。
5 なお、「棚卸資産を売却するものとした場合に通常付される価額」は、棚卸資産を商品又は製品等として売却するものとした場合において見込まれる売却価額であるから、資産の評価損益の計上を行う場合における時価である「当該資産が使用収益されるものとしてその時において譲渡される場合に通常付される価額」(法人税基本通達4-1-3、9-1-3)や、スクラップ等としての処分価額とは異なることとなる。
参考
棚卸資産評価基準
通常の販売目的で保有する棚卸資産の評価基準
7.通常の販売目的(販売するための製造目的を含む。)で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額もって貸借対照表価額とする。この場合において、取得原価と当該正味売却価額との差'額は当期の費用として処理する。
8.売却市場において市場価格が観察できないときには、合理的に算定された価額を売価とする。これには、期末前後での販売実績に基づく価額を用いる場合や契約により取り決められた一定の売価を用いる場合を含む。
9.営業循環過程から外れた滞留又は処分見込等の棚卸資産について、合理的に算定された価額によることが困難な場合には、正味売却価額まで切り下げる方法に代えて、その状況に応じ、次のような方法により収益性の低下の事実を適切に反映するよう処理する。
(1) 帳簿価額を処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)まで切り下げる方法
(2) 一定の回転期間を超える場合、規則的に帳簿価額を切り下げる方法
10.製造業における原材料等のように再調達原価の方が把握しやすく、正味売却価額が当該再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合には、継続して適用することを条件として、再調達原価(最終仕入原価法を含む。以下同じ。)によることができる。
低価評価損は認められないという解答を作るうえでの手順や論理性が重視されている設問です。
第64回 法人税法 税理士試験 第2問 解答速報 繰延資産(減価償却超過額の空欄は無意味なものではない) [税理士試験と実務の接点]
減価償却超過額の空欄は無意味なものではない。
税法固有の繰延資産は、長期前払費用として処理することになります。
会計基準がなく、かつ、法人税法で定める処理に拠った結果が、
経済実態をおおむね適正に表していると認められるため、
3年で償却していくこととなります。
繰延資産の償却額の損金算入に関する明細書を作成し、
償却限度額を算出し、
償却限度額を超えたものは損金の額に算入されないことになります。
今回の設問では、
一般に公正妥当と認められる会計処理の基準で処理が行われている前提です。
当期に費用化した金額1,300,000円となるならば、
前期に費用化した金額は、650,000円となります(支出日から決算日までが6月のため)。
となれば支出額は、2,500,000円+650,000円=3,150,000円になります。
(科目が前払費用。
支出額が3,150,000円となると本体 3,000,000円。
消費税処理が気になりつつも、
消費税について特に指示がないという前提で消費税は無視します。)
前期は
(3,150,000-2,500,000)-3,150,000×6/36=125,000円
この金額は繰延資産償却超過額ですが、
この金額を期首の別表五(一)の数値として把握する必要があるのです。
そのヒントが減価償却超過額なのです。
【資料4】
作成途中と書いてあることを読み取っているか。
別表五(一)も作成途中なのです。
あってないということです。
でもヒントをいれてくれているのです。
ちなみに繰越損益金も利益準備金が重複した形で計上されています。
今期は
(2,500,000-1,200,000)-3,150,000×6/12=250,000円
の繰延資産償却超過額が算出されます。
別解として
支出額を
2,500,000×36/30で計算し3,000,000円とすることも考えれられます。
一見よさそうに見えますが、3,000,000円で前期は6月で500,000円を費用化し、今期は1,300,000円費用化したということになり公正妥当な会計処理による会計処理になっていないです。減価償却の資料を見ても会計処理に規則性が感じられます。ここを鑑みて別解は成り立たないでしょう。
毎月87,500円を3年間で費用化しているという会計処理を読み取る必要があります。
(作問者は、数値作りも上手です)。
支出額を3,150,000円とする場合と
支出額を3,000,000円とする場合
どちらも正解に見えるかもしれません。
税理士の実務は論理的によりどちらが成り立つかを検証する機会が多々あります。
そこまで踏まえた良問だと思います。
会計基準を無視し、また会計数値が無意味なもので減価償却超過額や繰延資産償却超過額の練習をしていたのでは解答にたどりつけないだけではなく繰延資産の存在にすら気づかないかもしれません。また、別表五(一)も無意味な減価償却超過額ではないのです。
参考までに、個人所得税の事業所得では、減価償却も繰延資産償却も同一用紙に記載します。
(作問者は、数値作りも上手です)。
会計基準を無視し、また会計数値が無意味なもので減価償却超過額や繰延資産償却超過額の練習をしていたのでは解答にたどりつけないだけではなく繰延資産の存在にすら気づかないかもしれません。また、別表五(一)も無意味な減価償却超過額ではないのです。
参考までに、個人所得税の事業所得では、減価償却も繰延資産償却も同一用紙に記載します。
第64回 法人税法 税理士試験 第2問 解答速報 租税公課が得点源??? [税理士試験と実務の接点]
https://www.youtube.com/watch?v=8FidnqRuubE&feature=youtu.be
■レジュメ
http://kyoffice.com/wp-content/uploads/2014/08/dfc91a36db1d51b8a9abfd43608e03d9.pdf
実務力を試す芸術的問いに感動しました。
租税公課が得点源と言っているようでは一生解明できない問いです。
■【資料2】未払法人税等を空欄にしている
■【資料4】作成途中とされた別表五(二)
■中間法人県民税納付額412,800円に隠されたヒント
これを読み取って読解力、検証力を駆使し適正な申告書を作成していくのです。
【資料4】
作成途中と書いてあることを読み取れば、別表五(二)も作成途中だということがわかります。
作成途中=完成していない=あってない
ということです。
あっていない資料で調整してはいけないのです。
税引前利益が 102,466,100円も読み取るべきです。
・当期純利益 79,506,100円
・納税充当金 17,750,000円
・中間納付額 5,210,000円
計 102,466,100円
大きな減算項目が想定されない以上
35,000,000円くらいの税金が必要となります。
現処理では
・中間納付額 5,210,000円
・納税充当金 17,750,000円
計 22,960,000円
納税充当金の少なさもわかるでしょう。だからこそ作成途中なのです。
これが検証力で大切な力なのです。
第62回にも前期の状況から状況をくみ取る租税公課の問題が出題されています。
租税公課が得点源だったことは最近の本試験ではないのです。
中間納付額の法人事業税1,770,000円を見て別表5(2)の事業税の取崩額3,554,000円を見て約2倍の関係だと捉えられる数的感覚も税理士実務には必要です。
前期の見積額が当期の中間の約2倍だということは前期は中間納付はなかったと読み取る力も必要です。
ここまで解明と検証をかけて
■法人税 2,064,000円×2=4,128,000円
■法人事業税 1,770,000円×2=3,540,000円
■法人県民税 412,800円×2= 825,600円
■法人市民税 963,200円×2=1,926,400円
次に
■復興特別法人税ですが
4,128,000円×10%=412,800円です。
なんと法人県民税と同一数値。作問者のヒントです。
上記金額を合計すると11,099,200円ではなく10,832,800円です。
差額266,400円は余剰取崩と判断すべきでしょう。
【資料2】の前期の未払法人税等を空欄にしているのもそこに気づいて欲しい意思表示です。
納税充当金支出事業税等は、3,554,000円ではなく
3,540,000円+266,400円の3.806.400円です。
取崩額は
法人税額等は
4,128,000+412,800+825,600+1,926,400=7,292,800円(7,545,200円より修正)
事業税は
3,540,000円(3,554,000円より修正)
余剰取崩
266,400円
損金経理をした納税充当金も追加計上の必要性を指摘すべきだと思います。
業績結果をしっかり毎月の実務で伝え税額がいくらになるか事前に伝えながらかつ適用できる有利規定をつかいながら税金計算をしていく税理士でないと税金徴収ができないと強く思います。
いきなり計算して税額は●●になりました。
関与先とのトラブルのもとにしかなりません。
税金を積極的に支払いたいと思う人間は、かなりのレベルで成功した方か変わったか方かもしれません。
大多数の人間に支払いたくない税金を払わせることができる人材はきっちりコミュニケーションがとれ業績をしっかり把握している能力が不可欠です。
税理士像をしっかり想定して作問された傑作だと思います。
検証していく力と数的感覚を持つ税理士像を想定し作成された問題です。
■税理士試験 法人税法 第61回 第一問 問2解明のために② [税理士試験と実務の接点]
■税理士試験 法人税法 第61回 第一問 問2解明のために②
読みまくりをしてもう一度設問を読んでください。
(宅地開発等に際して支出する開発負担金等)
7-3-11の2
法人が固定資産として使用する土地、建物等の造成又は建築等(以下7-3-11の2において「宅地開発等」という。)の許可を受けるために地方公共団体に対してその宅地開発等に関連して行われる公共的施設等の設置又は改良の費用に充てるものとして支出する負担金等(これに代えて提供する土地又は施設を含み、純然たる寄附金の性質を有するものを除く。以下7-3-11の2において同じ。)の額については、その負担金等の性質に応じそれぞれ次により取り扱うものとする。(昭55年直法2-8「二十一」により追加)
⑴ 例えば団地内の道路、公園又は緑地、公道との取付道路、雨水調整池(流下水路を含む。)等のように直接土地の効用を形成すると認められる施設に係る負担金等の額は、その土地の取得価額に算入する。
⑵ 例えば上水道、下水道、工業用水道、汚水処理場、団地近辺の道路(取付道路を除く。)等のように土地又は建物等の効用を超えて独立した効用を形成すると認められる施設で当該法人の便益に直接寄与すると認められるものに係る負担金等の額は、それぞれその施設の性質に応じて無形減価償却資産の取得価額又は繰延資産とする。
⑶ 例えば団地の周辺又は後背地に設置されるいわゆる緩衝緑地、文教福祉施設、環境衛生施設、消防施設等のように主として団地外の住民の便益に寄与すると認められる公共的施設に係る負担金等の額は、繰延資産とし、その償却期間は8年とする。
解説
⑴ 大都市周辺において土地所有者が土地の開発行為を行おうとする場合には、地元市町村の定める開発指導要綱等に基づき、宅地開発に関する諸条件について厳しい行政指導を受けるほか、特に既存の公共施設の利用関係調整する等の理由から、道路、公園、学校、消防施設、汚水処理場等の施設の整備又はこれらの施設の建設若しくは改良に要する費用に充てるものとして、 種々の負担金の納付を要求される事例が多い。
また、負担金の徴収に代えて、土地の提供を求められる事例もあるようである。
このような開発指導要綱等に基づく負担金(一般にこれを「開発負担金」と称している。)の徴収は、必ずしも法令にその根拠を置くものではないが、現行の都市計画法において、開発行為につき都道府県知事の許可を受けるためには、開発行為に関係がある公共施設を管理する市町村長の同意を得ることが必要とされているため(同法32)、地元市町村はその同意権を背景にして開発指導要綱等に基づく行政指導を行い、また、開発負担金の徴収を行うものであるから、当該負担金の徴収は、これを納付する所有者にとって事実上強制的なものとなっている。同様のことは、建物の建築許可に関しても生じている。
⑵ ところで、このような開発負担金等の経理処理については、それが土地の開発又は建物の建築の許可を得るために直接要するものであるという点に着目すれば、土地又は建物の取得価額に算入しなければならないという考え方が出てくる。
しかしながら、すべての負担金が必ずしも一様のものではなく、その内容は区々にわたっているから、およそ一律に土地又は建物の取得価額に算入しなければならないといったような考え方は必ずしも妥当でない。
そこで、本通達においては、これらの開発負担金等については、その性質に応じて土地の取得価額に算入し、あるいは土地又は建物とは別個のものとして償却させるという立場がとられており、具体的には開発負担金が三つのカテゴリーに分類されている。
⑶ まず、第1は、例えば、団地内の道路、公園又は緑地、公道との取付道路、雨水の調整池などのように、直接その土地の効用を形成すると認められる施設に係る負担金について定めている。すなわち、未開発の土地はこれらの施設が整備されはじめて土地としての一般的効用を具備することになるのであるから、このような種類の開発負担金は、いわば土地を土地として事業の用に供するために必要不可欠の費用であり、その性質上、土地の取得価額に算入することが相当である。本通達の⑴は、このような考え方で整理されている。
⑷ 次に、第2のカテゴリーとしては、例えば、上下水道、工業用水道、汚水処理場、団地近辺の道路で取付道路以外のものなどのように、土地又は建物の効用に寄与はするけれども、それは間接的であって、むしろ当該施設自体として独立した効用を提供すると認められる施設に係る負担金がある。これらの負担金については、土地又は建物の効用とは別に当該法人の便益に直接寄与するというべきであるから、土地又は建物の取得価額に算入することなく、それぞれその負担金の徴収の目的となった施設の性質に応じて、無形固定資産又は繰延資産として償却することとされている。これが本通達の⑵である。
なお、この場合、上下水道や工業用水道に係る負担金については、既に税法上、水道施設利用権又は工業用水道施設利用権として特掲されているので(令13八タ、レ)、これらの資産区分に従って償却することになる。また、団地近辺の道路などに係る負担金については、繰延資産として償却することになるが、これらについでは、その便益は主として当該法人に寄与すると認められるところから、償却期間は当該施設の耐用年数の70%の年数を用いることになろう。
⑸ 第3としては、団地の周辺又は後背地の住民との関係を調整するための負担金がある。例えば、石油コンビナートその他の工場団地が建設される場合には、周辺住民の生活環境の保持や公害の防止などを目的として、進出企業の負担の下にいわゆる緩衝緑地等が設置されるのが常識になっているし、また、工場以外の住宅団地などが建設される場合には、周辺住民と共用される学校施設、ごみ処理場、消防施設等の整備のために負担金が徴収されることが多いが、これらの負担金は、土地や建物の効用とは直接関係がないともいえるから、その取得価額に算入することはむろん適当でない。さりとて団地内の法人がこれらの施設から直接に専属的に便益を受けるというものではないから、第2のカテゴリーに属する負担金とも異質のものである。要するに周辺住民との相隣関係を調整するために徴収されるものであって、その費用効果は第2のカテゴリーに整理された負担金よりも当該法人にとっての便益関係が迂遠な関係にあるということができる。
そこで、本通達の(3)において、このような種類の負担金についでは、公共施設に係る負担金たる繰延資産とし、その償却期間を「8年」とすることとされている。
なお、この⑶の負担金についでは、考えようによっては、その団地に建設される工場その他の施設に係るいわゆる「総がかり費用」として全体の固定資産に配賦するという整理のしかたもあると思われる。しかしながら、このような総がかり費用として各固定資産に配賦することは実務上きわめて煩さであるし、仮に工場建設等に係る総がかり費用であるとすれば、現在、機械設備等の平均的な耐用年数が7年ないし8年であることからすれば、全体として8年程度で償却することとしても結果的にそれ程の違いはない。
さらに、従来、石油コンビナート等において建設される緩衝緑地に係る負担金についでは、いわゆる緑化施設に係る繰延資産として、その耐用年数20年の40%に相当する年数、すなわち8年で償却することとされており、これら既往の取扱いとの整合性を図る必要もあろう。本通達において、(3)のカテゴリーに属する負担金についで8年を償却期間とする繰延資産として一括償却することとされたのは、以上のような理由によるものである。
⑹ 以上のように開発負担金の取扱いを整理した結果、建物の建築許可に関して徴収されるこの種の負担金ついては、建物の取得価額に算入されるケースというのはほとんど存しないことになる。すなわち、建物の建築許可に関連して徴収される負担金としては、一般に本通達の⑵又は⑶に該当するものに限定され⑴のカテゴリーに属する負担金を徴収されるケースというのは、通常あまり考えられないからである。
⑺ なお、本通達は、当該土地、建物等が当該法人にとって固定資産である場合のことを前提として定められている。土地、建物等が棚卸資産である場合には、このように開発負担金を区分することなく、すべて棚卸資産の取得価額に算入して、売上原価として払い出すということが予定されていることに注意しなければならない。
ただし、その土地、建物等の譲渡を受ける側の法人における取扱いについては、次の法人税基本通達7-3-11の3において明らかにされている。
⑻ ところで、宅地開発等に関連して企業と地元市町村とが協議を進める過程においては、上記のように公共施設等の負担金としての性格が明らかなもののほか、どう見ても純然たる寄附金としかいいようのない金銭又は施設が当該市町村に提供されることがまま見受けられるようである。
例えば、ゴルフ場建設に関連して、地元の小学校にプールの建設資金を寄附するとか、企業自体としては全く利用関係を持たない地区の檎易水道の建設工事費の一部を負担するというような事例である。
このように、動機は宅地開発等に関連するものではあっても、客観的にみて純然たる寄附金として市町村に提供される金銭その他の資産については、むろんここでいう開発負担金には含まれない。
このようなものについでは、一般の例により、地方公共団体に対する寄附金として取り扱われることになることはいうまでもないところであり、本通達の本文かっこ書においても、念のためそのことについで触れられている。
ただし、名目は寄附金であっても、それが土地の払下げ等に関連するもので実質的に土地の代価の一部を構成すると認められる場合には、むろん土地の取得価額に算入されることになる(法基通7-3-3)。
■税理士試験 法人税法 第61回 第一問 問2解明のために① [税理士試験と実務の接点]
■ 当てはめでわかるなら専門家はいらない。
法人税法における基本的な制度に関し、具体的な事例への適用についての問いかけを行い、法令等を正しく解釈・適用することができるかどうかという能力を問う問題
当てはめでわかるなら専門家はいらない。
解釈の意味がわからないと専門家なんかに絶対なれない。
ちなみに「解釈という論理操作を経ることなく意味の明瞭な法は、一つも無い。」
もう一度確認です。
「当てはめでわかるなら専門家はいらない。」
法人税法 第61回 第一問 問2
低額買入れ
電気製品の製造業を営む内国法人のC社(3月末決算)は、その製造工場を建設するため、D市の工場誘致条例に基づき、平成25年9月26日に、D市が所有する土地を300,000,000円で取得した(当該土地の時価は500,000,000円とする。)。
D市においては、一定規模以上の工場を建設する場合には、その許可を受ける条件として、D市の開発指導要領に基づき負担金を支払わなければならないこととされており、C社は同年10月3日に50,000,000円の負担金をD市に支出した。この負担金は、周辺住民の生活環境の保持を目的として、工場敷地に隣接するD市の所有地に緩衝緑地を設置する費用に充てられた。
この場合のC社の当期(平成25年4月1日から平成26年3月31日までの事業年度をいう。)における税務上の処理はどのようになるか。その法的な理由・考え方を、仕訳を示しながら簡潔に説明しなさい。
(注) 解答は答案用紙の指定された枠内に記載すること。
(C社の仕訳)
借 方 |
貸 方 | ||
項 目 |
金 額 |
項 目 |
金 額 |
土地 ※1 |
500,000,000 |
現金 |
300,000,000 |
|
|
受贈益 |
200,000,000 |
土地圧縮損 ※2 |
200,000,000 |
土地 |
200,000,000 |
繰延資産 ※3 |
50,000,000 |
現金 |
50,000,000 |
繰延資産償却費 ※4 |
3,125,000 |
繰延資産 |
3,125,000 |
|
|
|
|
税務上の処理はどのようになるか。
税務以外の処理は?
基本、会計と実務イメージを持てるかです。
300,000,000円で購入して、時価との差額を受贈益を仕訳をおこす人がどれだけいるかです。
まして、この場合の時価は、どうやって用意するのでしょうか。
安く土地を購入していることは、工場誘致条例の一連の流れでわかっているかもしれません。決算だけ担当している税理士なら、たいていわからないことかもしれません。
こんな税理士いらないというのが本試験の意図なのです。
法的な理由・考え方。
次に法的な理由・考え方を条文、当てはめと思っていたら答えはできません。
時価を測定していく法人税視線での理由と考え方を下記に記載します。これこそが、解釈なのです。
当てはめで、わかるなら専門家はいらないのです。
・ 工場誘致条例で土地購入して、工場移転するんだ。
・ 工場誘致条例の割引率から時価を測定しなくては。
・ それで、受贈益を計上して、国庫補助金の圧縮明細を作成して、直接減額を行い、経理要件と明細要件を整備しないと。
・ これをやらないと100,000,000円の追徴税額だ。
お金をもらって、国庫補助金の圧縮記帳を行うのとだいぶイメージは違うと思いますが、ここまでわかりさらに通達まで、調べて、受贈益、圧縮損の計上はしなくても、明細は、作成して、課税を繰り延べる体制を整えないと、税務調査で指摘されたら、200,000,000円の所得増加に対する、税額、附帯税が加わるのです。
話を、戻します。
税務上の処理はどのようになるか。会計は、購入で処理しても、税務は時価取得との違いをきっちり伝えないといけないのです。法的な理由・考え方は、まさに「解釈」なのです。
国税庁のポイント説明もこれで意味がわかってくると思います。
法人が国庫補助金等の交付を受けて固定資産を取得した場合には、補助金相当額の範囲内で圧縮記帳が認められている。法人が地方公共団体から固定資産を時価よりも低い価額で取得した場合のように、国庫補助金等の交付と経済的に同様の実態にあるケースにおいても、時価と対価との差額を補助金相当額とみて、圧縮記帳と同様の取扱いが認められている。
また、法人が土地・建物等の造成・建築等に際して、地方公共団体の開発指導要領に基づき一定の負担金を支出する場合がある。本問のように、地方公共団体の所有地に緩衝緑地を設置する費用に充てられる負担金を法人が支出した場合には、その支出した金額を繰延資産として計上して償却することになる。
問2は、このような地方公共団体との取引に関する税務上の取扱いについて、基本的な理解を問うものである。
以上、いずれも法人税法における基本的な制度に関し、具体的な事例への適用についての問いかけを行い、法令等を正しく解釈・適用することができるかどうかという能力を問うこととしている。
会計基準的には
土地 300,000,000/現金 300,000,000になります。
当たり前ですが、収益を実現主義とする会計基準では、受贈益200,000,000円を認識させるのは、難しいです。
また、上記仕訳では、損金経理要件も満たしていません。果たして圧縮記帳ができるのでしょうか?
税務上の処理とは、中小実務なら仕訳を切れるものという意識も持って下さい。中小実務なら、税務処理を意識した仕訳も普通にできるのですから。
C社が工場誘致のためにD市から土地をその時価に比して著しく低い価額で取得し、その実際の取得価額を帳簿価額とした場合としたとき(会計基準尊重したとき)は、税務上は、まず、その土地を時価により取得したものとし(時価と実際取得価額との差額は国庫補助金等の交付を受けたものとし)、次いで、時価と実際価額との差額に相当する圧縮記帳をしたものとして取り扱われる。
会計基準的尊重し、下記仕訳が切られても
(土地 300,000,000/現金 300,000,000になります。)
税務上は、下記仕訳になります。
土地 500,000,000 /現金 300,000,000
/受贈益 200,000,000
圧縮損200,000,000 /土地 200,000,000
損金経理要件は、満たしていることになるのです。
※1
C社が工場誘致のためにD市から土地をその時価500,000,000円に比して著しく低い300,000,000円で取得し、その実際の取得価額300,000,000円を帳簿価額とした場合としたときは、税務上は、まず、その土地を時価により取得したものとする(時価と実際取得価額との差額は国庫補助金等の交付を受けたものとする)。
※2
時価500,000,000円と実際価額300,000,000円との差額に相当する200,000,000円を圧縮記帳をしたものとして取り扱われる。
固定資産を時価よりも低い価額で取得した場合は、国庫補助金等の交付と経済的に同様の実態にあるケースにおいても、時価と対価との差額を補助金相当額とみて、圧縮記帳と同様の取扱いが認められている。
※3
周辺住民の生活環境の保持を目的として、工場敷地に隣接するD市の所有地に緩衝緑地を設置する費用については、C社以外の住民の便益に寄与する費用であるため、土地の取得価額に算入することは適当ではない。さりとて、C社にとって、周辺住民との相隣関係を調整し、反対運動等の防止や安心操業できるためのもので、自己が便益を受ける負担金として位置づけられるため繰延資産と考える。
※税務上は、税法固有の繰延資産に該当するため勘定科目は、繰延資産を使用(会計科目は、長期前払費用)。
※4
緩衝緑地は、公共的施設ではあるものの、C社にとっては、専用資産ではなくまた、市民のためのものであり、C社にとっては、迂遠な支出といえる。よって償却期間は、耐用年数の40%とする。
緩衝緑地の償却期間は、構築物の緑化施設及び庭園のその他の緑化施設及び庭園(工場緑化施設に含まれるものを除く。)の
20年の40%の8年とする。
※本当は、通達にかかれていますが、工場敷地に隣接と工場緑化施設との差異も感じ取ること。
緑化施設及び庭園
細目 |
耐用年数 |
1 工場緑化施設 |
7年 |
2 その他の緑化施設及び庭園(工場緑化施設に含まれるものを除く。) |
20年 |
■法人税法第63回第一問解明のために⑥ [税理士試験と実務の接点]
■法人税法第63回第一問解明のために⑥
弁済額はいくらになりますか?
普通に考えてください。時価変動する有価証券を担保として提供するときに、12,000,000円の価値がありました。
お金にするなら、12,000,000円になるわけです。もし、保証債務の履行として処分された場合に、契約する際に、弁償額をいくらに設定しますか?
同じ、有価証券を返してくださいということもなくはないでしょうが、契約を結ぶ際の時価の12,000,000円を弁償してもらうと考えるのが普通の感覚のはずです。
同時両建説の仕訳
未収入金 12,000,000円 差入有価証券 10,000,000円
損害賠償金収入 2,000,000円
参考
異時両建説の仕訳
未収入金 7,300,000円 差入有価証券 10,000,000円
有価証券譲渡損 2,700,000円
① 甲社が丙社に対して求償分を現金で支払った場合
【同時両建説で処理しているか異時両建説で処理しているか】
【身内なのか身内でないのか】
同時両建説であるならすでに収益計上をしているので、現金を受取った場合に課税所得に影響することありません。異時両建説であるなら現金で受取った際に収益を計上していく必要があります。
●他法律参考
【保証債務を履行するために土地建物などを売ったとき】
1 特例のあらまし
保証債務を履行するために土地建物などを売った場合には、所得がなかったものとする特例があります。
保証債務の履行とは、本来の債務者が債務を弁済しないときに保証人などが肩代りをして、その債務を弁済することをいいます。
保証債務の履行に当てはまる主なものは次の四つです。
⑴ 保証人、連帯保証人として債務を弁済した場合
⑵ 連帯債務者として他の連帯債務者の債務を弁済した場合
⑶ 身元保証人として債務を弁済した場合
⑷ 他人の債務を担保するために、抵当権などを設定した人がその債務を弁済したり、抵当権などを実行された場合
2 特例の要件
この特例を受けるには、次の三つの要件すべてに当てはまることが必要です。
⑴ 本来の債務者が既に債務を弁済できない状態であるときに、債務の保証をしたものでないこと
⑵ 保証債務を履行するために土地建物などを売っていること
⑶ 履行をした債務の全額又は一部の金額が、本来の債務者から回収できなくなったこと
この回収できなくなったこととは、本来の債務者が資力を失っているなど、債務の弁済能力がないため、将来的にも回収できない場合をいいます。
例えば、本来の債務者が破産をしていたり、失そうをしているなどの場合がこれに当たります。
したがって、本来の債務者に弁済能力があるのに、債権の回収をしないときは、この特例は受けられません。
所得税法
(資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例)
第64条
その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く。以下この項において同じ。)の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額(不動産所得又は山林所得を生ずべき事業から生じたものを除く。以下この項において同じ。)の全部若しくは一部を回収することができないこととなつた場合又は政令で定める事由により当該収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは一部を返還すべきこととなつた場合には、政令で定めるところにより、当該各種所得の金額の合計額のうち、その回収することができないこととなつた金額又は返還すべきこととなつた金額に対応する部分の金額は、当該各種所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。
2 保証債務を履行するため資産(第33条第2項第一号(譲渡所得に含まれない所得)の規定に該当するものを除く。)の譲渡(同条第1項に規定する政令で定める行為を含む。)があつた場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつたときは、その行使することができないこととなつた金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除く。)を前項に規定する回収することができないこととなつた金額とみなして、同項の規定を適用する。
② 甲社が丙社に対しその工場建物及びその敷地を提供した場合
【客観的な処理で時価を測定するのか取引上の合意が時価になるのか】
【身内なのか身内でないのか】
実際問題は、敷地には担保がついているでしょう。
他の者ではない第三者でないなら客観的な時価をだしその差額の清算金をス支払わなければ、寄附金、受贈益の課税関係が発生します。身内だからこそ(グループだからこそ)現金化せずに資産を受け入れることが、可能なのかもしれません。
はじめの契約の段階で、保証債務を履行した際に工場建物及び敷地を弁済するということになっていれば、第三者取引である以上そこには時価が成立することになります。
●他法律参考
【課税標準】
課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額、すなわち、資産の譲渡、資産の貸付けや役務の提供について受け取る金額又は受け取るべき金額です。
この金額は、金銭で受け取るものに限られず、金銭以外の物や権利その他経済的利益の額など、対価として受け取るすべてのものが含まれます。
なお、この課税標準となる対価の額には、消費税相当額及び地方消費税相当額は含まれません。
このように、課税資産の譲渡等の課税標準は、当事者間で授受することとした対価の額となりますが、次の場合には、次の金額が課税標準になります。
⑴ 法人が自社商品などをその役員に贈与したり、著しく低い価額で譲渡した場合・・・・その自社商品の時価
⑵ 個人事業者が、自分が販売する商品などを家庭で使用したり消費した場合・・・・その商品などの時価
⑶ 代物弁済をした場合・・・・代物弁済により消滅する債務の額
⑷ 資産を交換した場合・・・・交換により取得する物品の時価(交換差金を受け取る場合はその金額を加算した金額
とし、交換差金を支払う場合はその金額を控除した金額となります。)
消費税法施行令
(課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準の額)
第45条
法第28条第1項 に規定する金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。
2 次の各号に掲げる行為に該当するものの対価の額は、当該各号に定める金額とする。
一 代物弁済による資産の譲渡 当該代物弁済により消滅する債務の額(当該代物弁済により譲渡される資産の価
額が当該債務の額を超える額に相当する金額につき支払を受ける場合は、当該支払を受ける金額を加算した金
額)に相当する金額
③ 丙社が甲社に対して書面をもって、求償分を支払わなくとも良い旨の通知を行った場合
【合理的な再建計画・整理計画があるのかないのか、相手に弁済能力がないのかあるのか】
【身内なのか身内でないのか】
企業が寄附をする際、通常指定寄附金や特定公益増進法人等に対する寄附金に該当するものに寄附することが多くまた、企業の体力を見て寄附というもの行っていくわけです。
寄附金課税を行うことは非常にまれなのです。
基本は身内の取引は適正な時価を算出して行うということが大前提なのです。
身内の取引であっても、合理的な再建計画や整理計画がありより大きな損害を回避するために社会通念上相当であるなら、寄附金課税が行われない場合もあります。安易に適用はできませんが、状況を見極める必要はあります。
第三者であっても寄附金課税が行われる場合があります。それは、債権放棄です。債権放棄は安易にはしてはいけないということを、もっといえば、不良債権を出さない処理をしっかり指導していくことが私たちの大切な業務のひとつなのです。
金銭債権を貸倒処理する際には、債務超過の状態が相当期間継続を立証し、その金銭債権の弁済を受けることができないことをも立証し、書面により債務免除額を明らかにしていく必要があります。
http://www.nta.go.jp/taxanswer/report3/faq5280-27.pdf
http://ameblo.jp/ginss2/entry-11663112846.html
■法人税法第63回第一問解明のために⑤ [税理士試験と実務の接点]
■法人税法第63回第一問解明のために⑤
1.他の者となりえるか
資本関係がないと書かれていますが、第三者になりえるでしょうか?
他の者になりえるでしょうか?
他の者の保証人になりますか?
保証人になるという段階で何らかの特殊関係があると見る方が自然です。
租税特別措置法ですが、国外関連者の定義があります。租税特別措置法だけに細かく実態に応じて定義されています。
■国外関連者との取引に係る課税の特例)
第66条の4
法人が、昭和61年4月1日以後に開始する各事業年度において、当該法人に係る
国外関連者
(外国法人で、当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資
(当該他方の法人が有する自己の株式又は出資を除く。)
の総数又は総額の100分の50以上の数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める特殊の関係
(次項及び第5項において「特殊の関係」という。)
のあるものをいう。以下この条において同じ。)
との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行つた場合に、当該取引(当該国外関連者が法人税法第141条第1号から第3号までに掲げる外国法人のいずれに該当するかに応じ、当該国外関連者のこれらの号に掲げる国内源泉所得に係る取引のうち政令で定めるものを除く。以下この条において「国外関連取引」という。)につき、当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は当該法人が当該国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、当該法人の当該事業年度の所得に係る同法その他法人税に関する法令の規定の適用については、当該国外関連取引は、独立企業間価格で行われたものとみなす。
●(国外関連者との取引に係る課税の特例)
第39条の12
法第66条の4第1項 に規定する政令で定める特殊の関係は、次に掲げる関係とする。
一 二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資(自己が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額(以下第3項までにおいて「発行済株式等」という。)の100分の50以上の数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係
二 二の法人が同一の者(当該者が個人である場合には、当該個人及びこれと法人税法第2条第10号 に規定する政令で定める特殊の関係のある個人。第5号において同じ。)によつてそれぞれその発行済株式等の100分の50以上の数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有される場合における当該二の法人の関係(前号に掲げる関係に該当するものを除く。)
三 次に掲げる事実その他これに類する事実(次号及び第5号において「特定事実」という。)が存在することにより二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係(前2号に掲げる関係に該当するものを除く。)
イ 当該他方の法人の役員の2分の1以上又は代表する権限を有する役員が、当該一方の法人の役員若しくは使用人を兼務している者又は当該一方の法人の役員若しくは使用人であつた者であること。
ロ 当該他方の法人がその事業活動の相当部分を当該一方の法人との取引に依存して行つていること。
ハ 当該他方の法人がその事業活動に必要とされる資金の相当部分を当該一方の法人からの借入れにより、又は当該一方の法人の保証を受けて調達していること。
(損害賠償金等の帰属の時期)
2-1-43
他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。以下2-1-43において同じ。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める。(昭55年直法2-8「六」により追加、平12年課法2-7「二」により改正)
(注) 当該損害賠償金の請求の基因となった損害に係る損失の額は、保険金又は共済金により補てんされる部分の金額を除き、その損害の発生した日の属する事業年度の損金の額に算入することができる。
本通達の適用に当たり、「他の者」とは社外の第三者のことであり、法人の役員や使用人はこれに該当しないものとされています。グループ内法人も「他の者」には該当しないものと考えられます。
本通達では「他の者」の不法行為による損失については,その損失が生じた事業年度の損金に算入し、損害賠償請求権についでは相手方との合意や訴訟等によりその額が確定した事業年度の益金に算入するという「異時両建説」を認め、また現金主義による処理も可能としています。これは損害賠償請求の相手方が他の者である場合は、相手方の資力が明らかでなく、現実的に回収が困難なことが多いことが理由となっています。
一方、法人の内部の者、すなわち役員や使用人による不法行為による損失の計上時期や損害賠償金等の帰属の時期についでは明らかにされていませんが、これは不法行為の当事者が法人内部の者である場合には、内部関係であるため、損害賠償請求といっても、本通達が想定する前提事実とはかなり事実関係が異なることも少なくなく、とりわけ同族会社のオーナー役員やその家族使用人等による不正行為の場合には、その内容や決着のつけ方などを一律に判断できないことも少なくありません。
このため、本通達をそのまま機械的に適用することとすれば、課税上の弊害も考えられますので、結局、個々の事案に応じて処理することとしているのです。
このことは、グループ内の法人間における損害賠償請求問題についでも同様に解されています。
他の者にはなりえないと考える方がいいかもしれません。保証人になることの関係性を考えてみてください。明確ではないのも事実ですが他の者ではない以上、相手方の資力や状況を把握することもできるはずです。
同時両建説での収益を計上する必要があります。この問題で求めている解釈です。
■法人税法第63回第一問解明のために④ [税理士試験と実務の接点]
■法人税法第63回第一問解明のために④
法人税法第63回第一問の問題です。今までのものを読み終えてから読まないと意図はつかめないかもしれません。
製造業を営む内国法人である株式会社甲((以下「甲社」という。) は、工場建物及びその敷地である土地の取得(工場建物の建設費用25,000,000円、敷地である土地の購入価格20,000,000円)に充てるため、平成12年中に乙銀行から借り入れを行った。その借り入れに際し、甲社との間に資本関係のない株式会社丙 (以下「丙社」という。) は、甲社からの委託を受けて、その保有する上場有価証券を担保として乙銀行に差し入れた。なお、当該上場有価証券の担保差し入.れ時の時価は12,000,000円、丙社の帳簿価額は10,000,000円であった。
その後、甲社の借入金返済が滞ったため、乙銀行は担保権を行使し、平成25年5月10日にその上場有価証券が売却され、売却代金 (譲渡対価7,300,000円) が債務の一部の弁済に充当された。
以上の事実関係の下で、丙社の当期 (平成25年4月1日から平成26年3月31日までの事業年度をいう。) に行うべき税務上の処理はどのようになるか。その法的な理由・考え方を、仕訳を示しながら簡潔に説明しなさい。
また、次の①から③までに掲げる事実が、丙社の翌期 (平成26年4月1日から平成27年3月31日までの事業年度をいう。) 中に生じた場合、丙社においては、それぞれ税務上どのような処理が必要と考えられるか。考えられる処理案を、その前提となる事実関係を適宜補いながら場合分けして示した上で、その処理の法的な理由・考え方を簡潔に説明しなさい。
なお、解答に当たっては、民事上の遅延利息は考慮する必要はない。
① 甲社が丙社に対して求償分を現金で支払った場合
② 甲社が丙社に対しその工場建物及びその敷地を提供した場合
③ 丙社が甲社に対して書面をもって、求償分を支払わなくとも良い旨の通知を行った場合
■法人税法第63回第一問解明のために③ [税理士試験と実務の接点]
■法人税法第63回第一問解明のために③
なぜ、ここまで試験に出題されるかと言えば、問題点を少なくても保持しているからなのです。
実務上、試験解答上も注意して活用しなければなりませんが、学術上の意見も押さえておいて、両方の意見を理解したうえで現状の処理を決定していく力が必要です。ひとりよがりな主張では税務のサポートはできません。
ここで、租税学の話になりますが、
「横領等の行為により受けた損害額に対して取得した損害賠償請求権の収益の認識は、その横領者である役員又は使用人の置かれた状況、損害賠償金の支払可能性等に照らして、「法基通2-1-43」による異時両建説による税務処理を課税実務(課税当局)が積極的に取り入れて運用すべきであると考える。それが納税者の租税負担能力に応じた課税関係が形成されるといえるからである。」
という租税学者は、多いのです。税務当局は、現状消極的ですが。
不法行為に係る損害賠償金等の帰属の時期-法人の役員等による横領等を中心に
1.問題の所在
私法上、他人の不法行為により損害を受けた場合には、その損害の発生と同時に損害賠償請求権を取得するものと解されている。そして、法人の課税所得の計算においては、このような不法行為により被った損害に係る損失の損金算入時期及び損害賠償請求権の益金算入時期について、学説上、同時両建説及び異時両建説が存する。
法人税法上、いずれの説を採るべきかについては、最高裁昭和43年10月17日判決(裁判集民事92号607頁)において、法人の代表取締役の横領行為によって生じた損失とこれに対する損害賠償請求権の計上時期が争われた事件について、原則として同時両建説によるものとの判断が示され、一応の決着をみたところである。一方、その後の課税実務においては、昭和55年の法人税基本通達改正に際して、その相手方がその法人の役員又は使用人以外の「他の者」である場合には、異時両建説を採用し現在に至っている。
この点について、上記の通達改正の前後から、不法行為の相手方が当該法人の役員又は使用人であっても異時両建説により損益計上を行うべきとの指摘をする学者、実務家が見受けられ、現在、学説上は同時両建説と異時両建説とが拮抗しているといわれている。また、裁判例においては、これまで前掲最高裁判決に沿った判断が続いていたところ、最近において、法人の経理部長の横領行為が税務調査で発覚した事件について、損害賠償請求権の益金算入時期をその行使が事実上可能となった時(法人がその損害の発生と加害者を知った時)とする判決も出されているところである。
これまで学説上様々な議論がなされ、また、裁判所の判断においても下級審ではあるが新たな判断が出されているのは、課税当局が法人税法上の取扱いについて必ずしも具体的な指針を示していないことも要因の一つと考える。課税実務においては、法人が自己の役員又は使用人の不法行為により損失を被る事例は少なからず見受けられるところであり、この際、最近における議論を踏まえながら、いかなる取扱いが妥当するのか、研究しておく必要がある。
2.同時両建説・異時両建説
同時両建説は、他人の不法行為により損害を受けた場合にはその損害の発生と同時に損害賠償請求権を取得するという私法上の法的基準と合致させ、また、不法行為による損失と損害賠償請求権が同一の原因から生ずるものであることから、損金と益金とを同一事業年度に計上すべし、との考え方によるものである。しかし、この考え方に対しては、損失確定説と同様に、法人税法22条2項及び3項の文理上からは、常に同時両建説が妥当するとの考え方には疑問を呈せざるを得ない。
異時両建説は、不法行為を受けたことにより取得する損害賠償請求権はいわば観念的・抽象的な債権であり、多くの場合回収が困難なものであることから、収益として確定したものではなく担税力の観点からすれば所得を構成するものではない、といった考え方によるものである。しかし、損害賠償請求権といえども金銭債権であることは疑いのないところであり、税法上、他の金銭債権と異なる取扱いをなす規定が存しない以上、このような考え方にも疑問なしとしない。また、不法行為による損害といっても、その内容は様々なものがあり、特に、横領等の加害者がその法人の役員や主要なポストに就いている使用人である場合には、課税当局の主張するように、その行為が個人的なものなのかどうかを峻別する必要もある。実務においては、法人の役員又は使用人による横領等の不法行為は、不幸にして、まま見受けられるところである。
3.現行取扱いの概要
法人税基本通達においては、損害賠償金の益金算入時期につき、その相手方が「他の者」である場合には、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度又は実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入することとしている(法基通2-1-43)。
課税当局が、このような異時両建説による処理を認めているのは、損害賠償金といってもその原因は多岐にわたり相手方に損害賠償の責任があるかどうか当事者間に争いのあることが少なくないこと等から確定的な収益といえるか疑問なしとしない面があることがその理由であると説明されている。
他方、その相手方が「他の者」に当たらない場合、すなわちその法人の役員又は使用人である場合には、通達上その取扱いは明らかにされておらず、上記通達の趣旨解説において「例えば、役員の場合にはその行為が個人的なものなのか、それとも法人としてのものなのか峻別しにくいケースが多いことから本通達をそのまま適用することには問題がある場合が多い。」とし、「役員又は使用人に対する損害賠償請求については本通達の取扱いを適用せず、個々の事案の実態に基づいて処理することとされている。」と記述されるにとどまっている。
4.現行取扱い及び学説からみた問題点
現行の取扱い及び学説については、課税実務上の観点からは、次のような問題点を指摘できる
⑴ 課税当局が示している現行の取扱いは、損害賠償請求の相手方が「他の者」である場合とその法人の役員又 は使用人である場合との取扱いの差異について、それぞれ別個の観点から説明されている上、相手方が後者の場合には、ケース・バイ・ケースで処理すべきとの説明は、実務上の具体的な指針を示しているとは言い難いと考える。
⑵ 不法行為による損害といっても、その内容は様々なものがあり、学説上のいずれの説を採ったとしても、すべてのケースについて一律に適用することは困難であると考える。特に、横領等の加害者がその法人の役員や主要なポストに就いている使用人である場合には、課税当局の主張するように、その行為が個人的なものなのかどうかを峻別する必要もある。
⑶ 最近の学者の論調では異時両建説が有力視されるが、その論拠として、被害発生事業年度においては、損害が生じている反面、その回復のための資金流入がないことなどから、納税者に「酷である」として、「宥恕的取扱い」を採るべきであるとの主張も多い。
以上のような問題点からすれば、今後の取扱いを考察するに当たっては、現行の加害者が役員又は使用人である場合と他の者である場合といった区分のみによるのではなく、租税法の立場からの法的根拠を整理すべきと考える。この点、現在の学説上拮抗しているといわれている同時両建説と異時両建説の相違は、結局は損害賠償請求権の益金算入時期であることからすると、法人税法における益金の基本的な認識基準である権利確定主義の観点からの検討が、適切な取扱いを考察する上で不可欠となろう。
5.収益の年度帰属と権利確定主義
法人税法においては、益金の額に算入する収益の額の年度帰属について、原則として、同法22条4項により発生主義のうち権利確定主義によるものと解されている。そして、この場合の「権利の確定」の意義については、唯一絶対の基準があるものではなく、通説、判例からは、これを権利の「発生」と同一ではなく、権利発生後一定の事情が加わって権利実現の可能性が増大したことを客観的に認識することができるようになったときを意味するものとしており、具体的には各種の取引ごとにその特質を検討して判断することとなるとされている。
このように、「権利の確定」がいつであるかについては、それは多義的であり唯一絶対の基準があるものではないが、かといって単純に個別判断によって決するものということにもならない。すなわち、私法上の法律関係に基づいてその「発生」がいつであるかについては十分に認識が可能であって、それにその権利の内容、すなわちその相手方、金額その他権利の内容、範囲が明らかであるかどうかで「確定」しているかどうかを判定することができるものと考えられるのである。
6.法人税基本通達2-1-43の妥当性
権利確定主義からの検討からすると、不法行為の相手方が「他の者」である場合に、損害賠償請求権の益金算入時期につき、一律に異時両建て(ないしは現金基準)による処理を認めている現行の法人税基本通達の取扱いについて、その妥当性に疑問が生ずることとなる。しかしながら、不法行為に係る損害賠償請求権は、突発的、偶発的に取得する債権であるところ、特に相手方が他の者である場合には、その身元や損害の金額その他権利の内容、範囲が明らかでないことが多いであろうから、その場合、その権利が確定しているとはみられない。したがって、相手方が他の者である場合に、被害発生事業年度において損害賠償請求権の益金算入を求めないとしても、権利確定主義の観点からも妥当した取扱いであると考える。
7.結論
法人が支払を受ける損害賠償金に係る損害賠償請求権の益金算入については、学説上の同時両建説、異時両建説に拘泥することなく、その損害と同時に取得する当該損害賠償請求権が、権利確定主義の観点から、それが「発生」したにとどまるものなのか、「確定」しているものなのかに応じて益金計上時期が決せられることが相当である。
すなわち、法人が損害を受け、相手方に損害賠償を請求する場合において、その損害賠償請求権の相手方が特定され損害額が算定されるなど権利の内容、範囲が確定した時点で益金に算入すべきものと考える。損害賠償請求権が損害の発生と同時に「確定」している場合にはその損害が生じた事業年度において当該損害賠償請求権を益金算入(結果として同時両建てとなる。)し、損害の発生時には損害賠償請求権は権利の「発生」にとどまる場合には当該損害の損金算入が先行する(結果として異時両建てとなる。)こととなろう。
そして、法人の役員又は使用人による不法行為による損失とこれに係る損害賠償請求権については、次のように取り扱うべきと考える。
⑴ その損害がその法人の役員又は使用人による横領による損失であるような場合には、通常、損害賠償請求権はその時において権利が「確定」したものということができるのであるから、被害発生事業年度において、当該損失の額を損金の額に算入するとともに、損害賠償請求権を益金の額に算入する。
⑵ 相手方がその法人の役員又は使用人であっても、権利の帰属を巡る損害賠償請求や交通事故による損害賠
償請求のように、私法上の権利の取得の時点で、その権利が「確定」していない場合には、それが確定した時点
で損害賠償請求権を益金の額に算入する。
■法人税法第63回第一問解明のために② [税理士試験と実務の接点]
■法人税法第63回第一問解明のために②
裁決例を1つ紹介します。
●裁決例
法人税法上、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当な会計処理の基準に従って計算すべきものとされているから、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する事業年度の益金に計上すべきものと考えられる。
この権利の確定とは、法律上その権利を行使することができるようになったことをいうものと解されるところ、横領等の不法行為による損害賠償請求権についても、法律上権利行使が可能となったとき、すなわち、不法行為によって損害賠償請求権が発生したときに、その権利が確定し、これを当該事業年度の収益に計上すべきと解される。
したがって、本件における損害賠償請求権は、従業員の不法行為が行われた本件各事業年度において発生し、その権利が確定することとなる。
また、A元所長は、本件出張所の業務全般の管理及び仕入れに関する責任者という請求人の主要な地位にあり、従業員の行った本件取引は、請求人の行為と同一視でき、法人税基本通達2-1-43を適用する前提となる「他の者」に該当するとみることはできず、当該通達の適用は認められないことから、本件においては、収益計上時期を損害賠償請求権が発生し、その権利が確定した本件各事業年度とすることが妥当である。
(平21. 4. 6 東裁(法・諸)平20-152)
現金責任者ではあるものの、もはや辞めていて、甲社と同一と言えるか?言えないか?
他の者と言えるか?言えないか?
裁決例は、「業務全般の管理及び仕入れに関する責任者という請求人の主要な地位」にいたと主張して、辞めた後でも、「他の者」には認定しませんでした。
また、判例でも経理部長で通達が使えない旨の判例もでています。
次に、雑損失で大丈夫か?給与課税をうけないのか?
法人がその社員の横領を黙示に承認していると見られる場合には、社員に対する給与認定もありえます。法人自体が当該行為を承認せず、横領という犯罪行為として対応している場合には、給与認定はないことになります。
被害者として、当該横領した社員に対して損害賠償請求の訴訟等(本問題はここまでは、していません)を提起しているような事実関係の下では給与の認定はされないことになります。